現在のフライパンは『表面加工』の商品が主流となっています。
しかし、この表面加工にはそれまでと異なる【使い方】がある事はあまり認知されていないようです。
正しく使えばしっかり耐久するこれら商品ですが、誤った使い方をすると1か月で性能の殆どが失われるケースもあります。
フライパンを早く熱したいからついつい使ってしまう【強火】ですが、実はこれが表面加工を劣化させる一番の原因なのです。
表面加工の『くっつかない』力は摩擦係数の低いフッ素が提供しています。
このフッ素ですが、耐熱温度は ‐100度~ +260度程度でフライパンでの強火調理に耐えきれるものではありません。
(強火で調理した場合、フライパンの温度は簡単に280℃以上となります)
その為、強火で調理を行うとフッ素の劣化がはじまりくっつきやすくなってしまいます。
調理に最適な温度は180℃と言われています。
最適な温度を保つために、中火以下での調理を心がけてください。
どのような素材も、温められると体積を増し冷えると収縮するという特徴を持ちます。
そして、熱によってどの程度体積が増すかを表す指標に『膨張率』という係数があります。
この膨張率は素材によって異なりるため複数の素材を合わせた商品では【急加熱/急冷却】によるフライパンの変形を引き起こします。
具体的には以下のようになります。
素材名 | 線膨張係数 | 単位 |
---|
フッ素樹脂 | 10 | 10-5/℃ |
アルミニウム | 23.6 | 10-6/℃ |
ステンレス | 17.3 | 10-6/℃ |
これだけ膨張率が異なりますので、急冷却した際に戻る量も相応に異なります。
弊社へ頂いたお問合せの中に「利用していたらIHで使えなくなった」「フライパンの内側が盛り上がってしまった」というものがあります。
この2件の原因は『加熱のし過ぎ』または『加熱からの急冷却』で膨張した素材が元の形状に戻れなかった際に発生する症状です。(特にIH対応のアルミ製フライパンで発生します)
『表面のコーティングが膨らみ剥がれた』この症状の原因の一端も素材の熱膨張です。
急な加熱や急な冷却はせず、調理後は徐々に温度が戻る様『お湯』や『ぬるま湯』につけて熱を冷ましましてください。
触れる程度に温度が下がったら、中性洗剤と柔らかいスポンジで表面をサッと洗いしっかり乾かしてからご利用いただくと、長くご愛用いただけます。
TV通販などで「油を使わなくてもスルっと快適」などPRしている商品があります。
しかし、油を使わない事は『健康面のメリット』はありますが『フライパンにとっての利点』は1つもありません。
3点ほど例を挙げてみます。
- フライパン表面(塗膜されたフッ素)が高温になりやすい
- 食材が熱せられたフッ素に直接あたり表面を削る
- フライパン表面に温度ムラができやすい
フッ素の熱伝導率が低い( 0.23 W/mK )ので厚く塗膜するとフライパン表面に温度が伝わりません。
その為、フライパン表面に塗膜されたコーティングは非常に薄く敷かれています。
フライパンの上に油が敷かれている場合、油は熱伝導の良い素材ですからフライパン表面から熱を受取り加熱が行き届いていない場所へ伝搬してくれます。
しかし、油が無いとその役割は上に乗った素材が担う事となります。
玉子焼きなどフライパンの上に大きく広がる食材であればまだよいのですが、肉や野菜などフライパンの上に空き地のできる食材の場合はフライパン表面に熱ムラを生みます。
食材が乗っている場所は食材に熱を奪われますから温度は上がらず、乗っていない場所はそのままどんどん熱くなり、結果としてコーティングに熱劣化が起こる事となります。
油を敷くことですべて解決するわけではありませんが、少しでも長くお使いいただくためにはとても大切なことですので「油を使わないで調理」はお控えください。
コーティングが膨れたようにめくれてしまった経験を持つ方は少なくないのではないでしょうか。
この原因が表面加工のフライパンのコーティング剥がれの原因の1つ『ピンホールに入った水分の気化』です。
フライパン表面を覆うフッ素のコーティングですが、実はピンホールという微細な穴が存在します。
このピンホールに水分が残った状態で加熱を行うとピンホール内で水が蒸発し周囲のコーティングを巻き込んで剥がしてしまいます。
その為、膨れたように見えるのです。
ピンホールが存在する理由は2つあります。
- フッ素は製造の段階で薄く塗膜するため、そもそもピンホールが存在する
- 本体素材の熱膨張によりコーティング自体も膨張収縮を繰り返すこととなりピンホールが生まれる
このように表現するとわかる通り「ピンホールが存在しない表面加工商品はない」と言えます。
つまり、コーティングが膨れて剥がれる現象は【お手入れによって回避】する以外方法がありません。
どのようにお手入れすれば良いか、それは『加熱のし過ぎ』に注意する事はもちろんですが、『ご利用前に十分水気を取る事』も重要です。
正確には水気を取らなくても大丈夫です。ピンホールに入った水が外に逃げられれば良いので表面に水を張っていただいてもOKです。
このコーティングの膨れは発生しやすい場所があります。
それは、フライパンの縁です。
ご利用前に【縁の水分のをふき取る】事を心がけましょう。
表面加工フライパンの多くが生地素材に『アルミニウム』を利用しています。
アルミという素材の料理器具としての特徴をまとめると以下の通りです。
- とても軽く女性でも持ちやすい
- 熱伝導率が高く加熱スピードが速い
- 錆びない(サビ難い)
このように書くとフライパンの材料としてアルミニウムが選ばれる理由がよくわかりますね。
しかし、困った特徴もあります。
- 熱伝導率が高いため冷めやすい
- 柔らかいので削れやすい
- 熱膨張率が高く加熱によって体積が増加する
- 磁石が付かないためIH調理器具に反応しない
そうなんです、アルミニウムだけでは電磁調理器に対応できないのです。
その為、IH対応商品では底面にステンレス鋼を使いIHで使えるフライパンに仕上げています。
『2つの素材の熱膨張率の違い』については【
調理後はぬるま湯に付けて急激に冷やさない】でご紹介させていただいた通りです。この2つの素材の膨張率の違いにより膨張後戻らない場合がある点がIH対応商品の注意点となります。
戻らないとどうなるのか、それはどのように変形したかによりますが『底面が膨れる』状態で変形してしまった場合、最悪IH調理器で加熱できない事態が発生します。
これは、IH調理器具と磁性体であるステンレス板の接地面積が少なくなる事で有効な電磁誘導が起こらず加熱できない状態です。
IHでご利用しない場合は底面が膨れていても火を通すことができますが、IHの場合この変形だけで【全く使えない】状態になってしまいます。
対応策はやはり『強火を使わない事』です。
これらの問題は、変化の量を小さくしてあげればよいので200℃を超える温度での調理を行わないだけで状況は全く変わります。
火加減には十二分に気を付けて調理していただけますと幸いです。
コーティングフライパンの要は【フッ素樹脂】です。このフッ素樹脂には際立った特徴が2つあります。
- 摩擦係数が低い(静摩擦係数:0.08~0.12 / 動摩擦係数0.04~0.08)
- 熱伝導率が悪い(熱伝導率:0.16~0.23 W/m・K)
こういった情報からもわかる通り、摩擦係数が低いフッ素の力を使い『ツルツル滑るような加工』にしているのがフライパンの表面加工(○○コーティング)の基本です。
他の素材と比較した情報も記載しておきます。
素材名 | 摩擦係数 | 熱伝導率 |
---|
フッ素樹脂 | 0.1 | 0.2 |
アルミニウム | 0.82 | 236 |
ステンレス | 0.60 | 236 |
鉄 | 0.52 | 26 |
金属の摩擦係数については表面の加工方法にもよりますからあくまでも目安ですのでご了承ください。
基本的なフッ素コーティングとマーブルコーティングの違いは表面の凹凸にあります。
コーティングでエンボス加工を施したと解釈すると解りやすいかもしれません。
凹凸があると何が変わるか。それは『食材との接地面積』です。
食材が点で支えられ宙に浮いていれば、食材がフライパンにくっついてしまう事態は発生しません。その力を利用すれば「よりくっつき難くなる」という発想のもとで作られています。
しかし、実際の利点はそこではなく『フライパンと食材の間の凹部を油が巡る事でくっ付き難くなる』という方が正しいと思われます。
マーブルコーティングでやってはいけない事があります。
それは、金属ヘラ等の固い調理道具でフライパン表面をゴシゴシ摩擦する事です。
この行為は、表面の微細な凹凸を削り取ってしまうことにつながります。せっかくの特殊加工を自分で壊してしまう事と同義ですので要注意です。
※他のコーティングでもコーティングを削り取る事につながりますから止めた方が良い行動です。
ダイヤモンドコーティングはフッ素樹脂にダイヤモンドの粒子を混ぜる事で塗膜されたフッ素の耐久性を上げた特殊加工です。
フッ素樹脂そのものには『摩耗に弱い(削れやすい)』という弱点があり、これを克服するために編み出されたのがダイヤモンドコーティングです。
基本形のフッ素樹脂コーティング(フッ素コート)と比べると次の点が際立った特徴となります。
「金属ヘラも使えます」というアナウンスがされる事が多いくらい表面が硬質化され削れにくくなっています。
※但し、金属ヘラより樹脂製ヘラの方が長持ちはしますので「使えるんだ」程度でお考え下さい。
フライパンの表面は調理の度に摩耗されますが、通常のフッ素コートよりも削れにくいとなればその効果も長く保つ事になります。
ダイヤモンドコートは「長く使える表面加工のフライパン」とご記憶ください。
セラミックとは『無機物を加熱処理し焼き固めた焼結体』の事で、お茶碗などの磁器がその代表です。
お茶碗などは固いガラス層が出来ていますよね。
セラミックコーティングはまさにこのセラミック層をフライパン上部に敷いた特殊加工を指します。
表面に出ている素材がフッ素ではないという、基本コーティングの(フッ素系)と一線を画す特殊加工です。
お茶碗を想像していただくと解りやすいのですが、利点としては下記2点があります。
前者はダイヤモンドコートも同じですが、後者の特徴はセラミックコーティングだけが持つものです。
遠赤外線の良い所はじっくり中まで火を通す事です。
その為、そもそも強火での利用を想定していません。(テレビCMなどでバーナーで焼いたりなど過激なパフォーマンスをしますがアレは嘘で、本質は「じっくり火を通す」です。)
また一方で困った弱点もあります。
摩擦係数が高いと言う事は『くっつきやすい』事を意味します。なかなか困った特徴ですよね。
ただ、ここに油が加わるとガラッと変わるのがセラミックコーティングの面白い所です。
セラミックとはガラス質の事ですからガラスで想像してみましょう。何もないガラス窓を手で擦ると滑らないですが、油が間に入るとツルツル滑りますよね。
セラミックフライパンも同じで、油を使う事で食材がツルツル滑るようになるんです。
油を使わないでも調理する事はできますが、こびり付きや色移り等の予期せぬ事態の発生を招きますので油は必ず敷きましょう。
ストーンコーティングについて、実はまだ明確なルールがありません。
大理石のような柄を付けたフッ素コーティングの呼称として使われる事もありますし、マーブルコーティングの進化系(目視できるほどの凹凸を持つ特殊フッ素加工)の呼称として使われる事もあります。
どちらにせよ、新しい技術を使ったコーティングである事に変わりはありません。